土地の境界線付近に隣地の越境物。トラブル解決のための実践対応を、函館市の不動産業者が解説します。
不動産取引における紛争の中で、実に多いのが境界線をめぐるトラブルです。
その中には境界が不明確なために起きる争いがありますが、これに関しては、不動産を売却または購入する際に宅建業者に相談・監修のもと、測量会社(土地家屋調査士)に依頼し、しっかり現況測量(実測)してもらうことをおすすめします。
越境物、あるいは支障物件という呼び方もしますが、これにはおもに次のようなものがあり、対象物ごとに対応方法が異なります。
越境物への対応法は地域性が関係します。例えば、権利異動(売買)が頻繁に行なわれる東京と函館のような地方都市では全然違います。
ここでご紹介することは、当社が営業する函館が舞台の話です。対応法や交渉マインドについては、地域性を考慮して読んでくださるとありがたいです。
不動産における越境とは?
「越境」の読み方は、えっきょう です。
不動産において、工作物等の支障物件が隣地境界線や道路境界線を越える、境界線をはみ出している状態を意味します。
では、支障物件にはどのようなものがあるのでしょう。
一般的には、ブロック塀やフェンス、物置、エアコンの室外機、出窓などが境界線を越えているケースが多いわけですが、ほかにも地中におけるコンクリートの基礎や給排水管などの埋設物、また空中(上空)で屋根の庇や雨樋、電線が越境をもたらす支障物件になっていることもありますので、注意深く現地を観察する必要があります。
引き続き、具体的にケース別に解説していきましょう。
①塀(木塀、コンクリートブッロク塀、ネットフェンス等)の越境
昔は、隣人同士で工事費用を仲良く分担して、境界線を中心に塀を設置することが多かったようです。
当時は現代と違って、境界線をめぐるトラブル自体がほとんど無かった時代ですから、それでよかったのでしょう。古き良き時代ともいえますね。
ところが、この話も現代に置き換えると、「境界を越境」する支障物が存在することになるわけですから、売主の義務としてしっかり調査したうえで買主に説明しなければなりません。(実際には宅建業者が行ないますが。)
まずは初期段階、つまり宅建業者の物件調査で把握できれば良いのですが、中には測量会社に調査してもらわないと正確なことがつかめない場合がありますので、オーナー様は「よし、不動産を売却しよう」と決めたら、実際に売り出す前に実測して現況を把握しておくのがベストですね。境界について、誤った説明を避ける意味でも。
先に測量費用(経費)を支出することを嫌い、「買い手もついていないのに実測するのは嫌だ」という方がいらっしゃいますが、買い手の立場になればそういう考え方にはならないはず。
不動産に限らず、購入を決めた後から“その商品(不動産)のマイナス情報や欠陥・不具合を聞かされるのは誰でも嫌なものです。”ご縁があって取引するわけですから、気持ちよく進めたいものです。
話がそれて、売主の心構え的な話をしてしまいましたが、本題に戻ります。
このような塀の越境があった場合、函館では「越境に関する協定書(覚書)」に当事者双方が書面に調印します。
当事者というのは、越境している側とされている側のことです。
期限のない紳士協定みたいなものですが、将来それらの工作物に手をかける(工事する)機会があったら、そのときに境界線内におさめて健全な状態に戻しましょうという約束を取り交わします。
もちろん越境の度合いによりますが、5センチ、10センチ越境しているからと言って「大勢には影響がない」という買主の寛容な心に救われているといっても過言ではないでしょう。
越境に関する協定書については、過去ブログの「土地の境界標確認と越境物調査、そしてその解決法。」 でご紹介していますので、興味のある方はチェックしてみてください。
但し、「塀が倒壊して、こちら側に倒れてきそうだ」という状況なら、悠長なことも言っていられません。仲介する宅建業者にお願いして、支障物件所有者に対して上手に交渉してもらうよう依頼してみましょう。
②樹木(植栽)の越境
竹木の枝が境界線を越えている場合
隣地の竹木の枝が境界線を越えているときは、その竹木の所有者に剪定を申し入れることができます。
しかし、少しでも越えたら剪除を請求できるのかといえば、どうやらそうではないようです。
例えば、境界を越えた枝からの落ち葉で雨樋が詰まって屋根を痛めたといった損害が大きな場合などは、当然に隣人に申し入れできるのでしょうが、そうでもないかぎり権利濫用と主張されてしまうこともありそうです。
ここで気をつけなければならないことは、竹木の所有者に剪除を申し入れできるのであって、勝手に切ってはいけないので十分に留意してください。
竹木の根が境界線を越えている場合
民法では、枝と異なり、根の場合は竹木の所有者の承諾なしに切ることができるとされていますが、相手方からすれば「ひと言話してくれたら、造園業者に依頼して移植したのに、無断で切ったあなたのせいで竹木が枯れてしまった」などと、損害賠償の責任を負うこともありえるので、十分に気をつけましょう。
ご近所付き合いを考えて、円満に話し合うという前提で申し入れを行なう姿勢が大事ですね。
③地中を横断する隣接地所有者(他人)の給排水管の越境
前面道路の配管敷設図ではなく、民地の敷設状況を図面で確認しないとわからないことです。不動産を売却または購入する場合は、ここも気をつけておきたいところです。
さて、例えば気に入った物件を購入する際に、対象物件に隣接地所有者の私設給排水管が地中横断していた場合で、例えば中古住宅として買う場合と、家を新築するつもりで買う場合とでは対応法が異なります。
中古住宅として購入する場合
他人管が自分の土地を地中横断しているからと言って、すぐに何かの問題が起きるとは考えられません。
もしも、何かが起きるとするならば、埋設されている水道管が破裂して水が噴出すことなどでしょうか。
そう考えると気になり始めますが、現況、敷地のどこを横断しているのかを理解し、工事のメンテナンスで業者さんが自分の敷地に立ち入ることがあったとしても、さほど困らないようであれば現状を是認(容認)する形でよろしいかと思います。
そもそも、以前の所有者の承諾があって、地中を横断させてもらったのでしょうから、そこは継承してあげる気持ちで。前所有者から「越境に関する協定書」が引き継がれていない場合は、あらためて作成しておきましょう
家を新築するために購入する場合
この場合は、前述の中古住宅を購入する場合と大きく前提が変わります。
なぜなら建物の基礎工事を行なうために、重機で土地を掘削するからです。
土木業者が根掘り(掘削)する際に、重機で誤って給排水管を引っ掛けてしまう可能が大きいので、工事に入る前に隣接地所有者と協議して前面道路本管からの他人の土地を横断しないような形で引き込直してもらうか、またはそれが無理なら基礎工事や工作物設置に支障がでないように引込ルートを変更してもらいましょう。
④隣接地建物の越境
隣接地所有者建物の屋根の一部(軒)が越境している場合や建物本体が越境している場合があります。
いずれも中古住宅を購入しようとする物件の隣接地がこのような状況である場合で、買主ご本人が容認できる状態であれば、「越境に関する協定書」の取り交わしでいいでしょう。
しかしながら、家を新築する場合に隣地の越境物があるとするならば、簡単な問題ではありません。
なぜならば、建築基準法には「ひとつの敷地にひとつの建物」という大前提があり、わかりやすく言うと、一つの敷地に二棟の建物を建てることは出来ないという意味です。
つまり、自分が建設しようとする敷地に、隣接地の建物本体や屋根の一部でも越境しているとひとつの敷地にふたつの建物が存在することになってしまい、これにより「確認申請」または「完了検査」に合格しないというリスクを負うことになります。
完了検査に合格しなければ銀行の住宅ローン融資が受けられなくなるなど、その影響(損害)は甚大です。
また最近では、ブロック塀などの越境がある場合は、銀行から住宅ローン交付の条件として越境に関する覚書(協定書)の提出を加える(求められる)ことが多くなりました。覚えておきましょう。
実務的には、確認申請用の敷地を云々という手法があるので対処は可能ですが、家を新築される買主様ご自身が苦労されないよう、宅建業者の腕の見せどころかもしれません。
屋根の一部であれば工務店さんに依頼してカットしてもらうことが可能ですが、建物本体が越境ということであれば、土地を分割して売買する方法もひとつでしょう。
なお、この越境が原因による土地の分割については、慣例的に越境している者に測量費用を負担していただいています。
以上のように越境にも様々な対象があります。
もちろん、あるべき姿、健全な状態に戻してもらいたいという越境されている側のお気持ちはとてもよくわかりますが、あくまで相手のあること。
今後のご近所付き合いを円満にすることが何しろ大事なことですから、懐を広くかまえ寛容な気持ちで交渉しましょう。
皆様が抱える土地の越境問題が、スッキリ解決できることを切に願っております。
越境に関する協定書(覚書)サンプル書式
越境に関する協定書の雛形をご紹介しますので、参考に活用してみてください。タイトルは協定書でも覚書でもかまいません。
越境する側、される側の双方で確認する事項は以下の通りです。
①境界線と越境する支障物件があることの確認
②支障物件が誰の所有で、誰が維持管理するかということと、土地の使用料を発生させるかどうかの確認
③期限は定めなくても、将来は越境のない健全な状態に整えることを確認
④売買などで所有権移転した場合にも、協定書の内容を互いに継承させること
この内容は互いに相手が約束を守ることを信じる...といった紳士協定になりますが、トラブルや紛争が無いことを確認しあえるので安心感が得られることが大きいわけです。
あくまでも隣人どうしが仲良く円満にお付き合いできるために、宅建業者がお役立ちできればいいですね。
越境に関する覚書には、すんなり調印?それとも拒否される?
土地、あるいは一戸建の売買において、程度の差はあれ、不動産業者にとって越境問題は日常茶飯事です。軽微なものから重度のものまで、越境の度合いはさまざまです。
それまでは気が付かなかったことも、いざ不動産を売却しようとしたときに気が付くのが越境問題。越境する側も、される側も突然のことに多少の動揺は伴うものです。
ましてや、面識のない不動産業者が訪問してくるのですから、緊張もしますし構えてしまう側面も理解できます。
私が越境交渉において心掛けていることは、これまでの経験上、悪意をもって意図的に越境している方はいらっしゃらないので、被害者・加害者どちらにも寄り添う気持ちで接することです。
さて、この越境交渉においてほとんどの人が、覚書や協定書に調印してくださいますが、ごく稀に拒否される人も存在します。
私の過去25年間で2~3回なので「ごく稀」という次元ですが、越境問題を解決できるかで不動産取引自体が破談になる可能性を秘めていますので、交渉する当時者としては気が気じゃありません。
さて、私のこれまでの経験の中で、最初に拒否や抵抗の反応を示された方のパターンは以下の通りです。
1. 悪気があって越境しているわけではないのに、責められている気持ちになり、協力したくない。
2. 見ず知らずの不動産業者が持ってきた書類にハンコを押そうものなら、あとあとろくなことがないだろうという疑念や不安から拒否する(^^;
3. 覚書に調印するくらいなら、自ら越境物を撤去したほうがいい。
越境の事実を告げた時に、大半の人が「状況はわかりました。まぁ、特に被害があるわけじゃないので、覚書にサインするのも問題ないよ。ご近所付き合いだから、〇〇さんにもよろしく伝えてくださいね。」という理解を示してくれます。
それでも、上記1と2の反応もあるわけで、このような時は根気よく相手方のお宅に通い続けます。
そうすれば、やがては誠心誠意の姿勢に、相手も心を開き説明する機会を設けてくれます。
ゆっくりお話しさえできれば、覚書の内容に同意し調印してくれるので、私は相手の誤解や不安な気持ちを取り除くことを念頭に、寄り添う気持ちで接することが大事だと考えています。
上記3のケースでは、コンクリートブロック塀が越境しており、その相手方(越境している側)に何度も足を運び訪問を続けましたが、取りつく島を与えてくれない相手でした。
しかしながら、覚書にサインしてもらえなければ、土地の売買が成立しないので、私自身が相当なプレッシャーを感じつつ、一週間に一度の頻度で通い続けました。
ちょうど6週目のことです。
その日、夕方に訪問すると、なんとコンクリートブロック塀の越境部分が撤去されているではありませんか。まったくの想定外な事態に、二度見、三度見したくらいです。
越境物の撤去は求めるのではなく、円満に覚書に署名してほしいというお話を繰り返してきましたが、相手にとっては「約束事を将来に残すより、そもそも問題を解消する」ことを選択されたようです。
相手方の大胆な行動に、私としてはバツが悪い気持ちと安堵の気持ちが交錯しましたが、感謝の言葉を述べ、その場を去ったことを今でも記憶しています。
越境交渉はデリケートなものですが、相手を敬う気持ちや思いやりをもってすれば解決できることだと思っています。参考にしていただければ幸いです。
越境に関する覚書のメリット、デメリットについて
越境に関する覚書が有るか無いかで、そのメリット・デメリットが顕在化する時期は、将来、あなたが当該不動産を譲渡、売却するときに買主に与える影響力が違います。
最初に、覚書があることのメリットは、境界線を巡り隣人同士で紛争が無いことが確認できる点です。
一番厄介な状況は、隣接地所有者から、境界線自体が「そこじゃない、こっちだ!」などと主張されることです。
しかし、覚書を交わしているということは境界線については理解、納得してもらっていることへの証明なので、境界線をはみ出している工作物等支障物件の対応だけ考えればよいわけです。
一方、越境に関する覚書が無い、取り交わせなかったことのデメリットは、客観的に買主から見ると「隣人同士の間に揉めごとが潜んでいる」と解釈されてしまいがちになります。
キツイ言い方になりますが、人によっては「瑕疵(欠陥)のある土地」というレッテルを貼られてしまい、結果的に不動産の価値を低下たらしめ、売却する際にマイナスに働く公算が大きいということです。
このことは隣接する土地それぞれに当てはまるので、隣人どうしで円満に協議し、覚書を取り交わすように努力しましょう。
越境対応のまとめ
1)境界標を以って境界線の位置確認を行ないましょう
2)越境度合いが大勢に影響がないのであれば、
①「越境に関する協定書(覚書)」で対応しましょう もしくは
②何も働きかけないことも選択肢のひとつです
3)越境が深刻な場合は、相手方に
①土地を分割して譲渡する(越境自体が根本的に解消される。この場合の測量費は越境している側が慣例的に負担している)、もしくは
②塀など工作物の修補をお願いしてみましょう
4)相手方の支障物件が越境している場合でも、くれぐれも勝手に撤去することがないようご留意ください。
5)今後のご近所付き合いも踏まえて、隣接地所有者には敬意をもって、ソフトにしなやかに交渉にあたりましょう
今日は越境トラブルの渦中にいる場合の対応法について紹介しましたが、何よりも大事なことはトラブルを未然に防ぐことです。
それは、不動産を売り出す前に現況測量を実施し、状況をしっかり把握することに尽きます。
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